中学校の“越境入学”を認める制度を導入した大阪府枚方市で毎年度、入学予定者の2、3割が転出する通学区域が生じ、学校間で人気の有無が目立ち始めている。生徒や保護者の意思を尊重する「学校選択制」を促す文部科学省の方針にのっとり、近隣自治体に先駆けてスタートして5年目。学力レベルへの不満からの転出がうかがえるケースもあり、導入前に懸念された「格差」を生まないための創意工夫が、現場レベルでは行われている。
枚方市では、今も市教委が決めた通学区域内の中学校に就学するのが原則だ。平成16年度から、保護者が申し出れば「生徒の具体的な事情」があれば、越境も認められるようになった。
通学区域がなく、全域から自由に中学が選べる東京都品川区のような「学校選択制」とは異なる。
市教委によると、これまでに認められたのは初年度の16年度162人、17年度189人、18年度218人、19年度286人で、増加傾向にある。
変更理由は19年度でみると「友人関係に関すること」(40・9%)「部活動に関すること」(33・9%)「通学距離に関すること」(15・7%)などが多い。
A中では、導入初年度には新1年生が他学区へ34人転出し、4クラスになるところが3クラスになった。17年度は2クラスに減り、18年度以降は3クラスを維持しているものの、30人前後が転出する状況は変わらない。
A中校区からの転出先は、隣接するB中校区とC中校区だ。転出理由についてB中の校長は「クラブ活動の選択肢の多さ」を挙げる。B、C中ともクラブ数が20を超えるのに対しA中は15。B中にはラグビー部、C中にはバスケットボール部と、子供たちに人気のスポーツクラブもある。
B、C中とも生徒数が800人超のマンモス校なのに対しA中は300人。A中の校長は「クラブ数を増やしたくても、部活が可能な部員数、顧問の教諭には限りがある」という。
通学の利便性から転出が固定化してしまったのはD中校区だ。制度導入後、隣のE中校区への転出者が増え続け、19年度はついに1クラスに相当する38人が転出した。E中校区に最も近い町に住む生徒はD中に通うのに約30分以上かかるのに対し、E中なら最長でも約10分だ。
学力格差の拡大や固定化の兆候がみられる校区もある。F中は制度導入時に「学校が荒れていた」といい、38人が複数の隣接校区に転出した。毎年度30人前後の転出が続く。
枚方市では制度導入前、保護者から「人気校とそうではない学校が生まれ、統廃合の対象となる学校も出てくるのでは」との声が少なくなかった。
これに対し市教委は「あくまでも事情のある生徒の保護者からの申し込みを受けて別の校区への進学を認めるもの。入学希望者がゼロになる学校が現れることはありえない」と、そうした懸念を否定してきた。
しかし、12年に学校選択制を導入した品川区では、入学希望者がゼロになる中学校が生まれている。
F中では、転出をくいとめるための取り組みも始まっている。主要5教科で、週1回放課後に生徒が自習する「学習クラブ」。パソコンから、自分が学習したい教科の問題をプリントし、解答後、自己採点。次回の学習目標を履修カードに書いて教師に提出する。教師は生徒の習熟度を確認、指導するという仕組みだ。
F中の教務主任教諭は「学校の実情に応じて努力を続けていくことが大切」と話している。