◇毎朝ゲームや歌、徐々に学習に移行
小学校入学直後の子どもたちが、勝手に動き回ったりして授業が困難になる「小1プロブレム」。急激な環境の変化が背景にあると言われ、11年度から実施される新学習指導要領は、学校生活にスムーズに適応できるようにするためのプログラム「スタートカリキュラム」の導入を求めている。
◆幼保の雰囲気つくる
東日本を季節はずれの寒波が襲った今月15日朝、仙台市郊外の市立鶴巻小学校(宮城野区)の体育館に防寒着を着た1年生全員が集まった。70人の児童に対し、先生は1年生2クラスの担任を含む5人。さらにこの日は、市内の幼稚園の先生3人も初めて加わり、歌やカードゲーム、絵本の読み聞かせなどを盛り込んで、子どもたちが幼稚園や保育園に近い雰囲気で楽しめるように工夫した。
生活科の時間に、音楽や国語、図画工作といった他教科の要素を取り入れながら、徐々に小学校の学習に慣れさせていく、こうした指導法を「合科的指導」と呼ぶ。鶴巻小の場合は、入学から5月の大型連休明けまでの1カ月間、毎日、朝の1〜2時間を使い、しかも学年全体で行うのが大きな特徴だ。
「いきなり1時間目は国語、2時間目は算数というふうに始めたのでは1年生には苦痛。友達と遊んだりしながら、自然と慣れていけるようにするのが狙い」。米沢孝雄校長は説明する。学年全体で行うのは、多くの児童や先生とも親しくなれるようにするとともに、別のクラスにいる幼稚園や保育園時代の友達と一緒になる機会を設けて入学後の心細さを解消する狙いもある。朝一番に設定するのは「その日一日を楽しく過ごせるようにするため」と言う。
文部科学省が新学習指導要領で、生活科を中心に義務教育の始まりにスムーズに適応できるようなスタートカリキュラムを作成するよう求めたことを受け、仙台市は米沢校長を委員長に大学の専門家や小学校、幼稚園の教員を交えたスタートカリキュラム検討委員会を設置。09年度から先行的に取り組みを始めた鶴巻小など3校の成果をもとに、今年2月には市としての「スタートカリキュラム作成の指針」がまとまった。スタートカリキュラムの実施校は今年度20校に広がり、11年度からは全校実施の予定だ。
◆外部サポーター常駐
スタートカリキュラムを円滑に進めるための方策の一つとして、指針は保護者や地域の人など外部人材の活用を挙げている。仙台市ではボランティアに小学1年生の教室に常駐してもらう「小1生活・学習サポーター」制度が09年度に始まり、今年度は45校で、200人以上が登録している。その一つ、若林区の七郷小学校を訪れた。
この日は給食が始まってまだ4日目。教室では、サポーターの今井美代子さん(51)が、不慣れな給食係の子どもたちと並んで配膳(はいぜん)を手伝っていた。いざ食べ始めると、パンを包む袋を開封できない子どもが、さっそく「先生」と手を挙げた。
この間までは幼稚園や保育園児だった子どもたち。できること、できないことには個人差がある。担任1人で全員に目を配るのは確かに大変だ。学年主任の山崎まゆみ教諭(53)は「大人が複数いれば『ちょっと待って』と後回しにしないですむ。安全面でも助かる」と言う。七郷小では17人のサポーターがローテーションで、夏休みまで毎日、1年生の6学級すべてに入る予定だ。
◆異なる指導に戸惑い
ただし、こうした仕掛けだけでは十分とは言えない。鶴巻小の米沢校長は「幼稚園や保育園と小学校との連携が重要」と言う。この日、鶴巻小を訪れていた私立みどりの森幼稚園(青葉区)の3人の先生の1人、山路博子教諭(39)は米沢校長が委員長を務めたスタートカリキュラム検討委の委員も務めた。その山路さんが「小学校は指示が多く、子どもたちが話を聞いている間も緊張しているように見えた」と語った。集団生活での規律を重んじて「真っすぐ並びなさい」「じっと座っていなさい」と細かく指示するのは小学校では当たり前だが、幼稚園サイドから見ると厳しく映るようだ。
そうした小学校入学後の指導法や環境の変化に子どもたちが戸惑い、結果的に学校が楽しくなくなって、最悪の場合「小1プロブレム」につながるのでは、というのが山路さんや米沢校長ら検討委メンバーの結論だ。ただ、その山路さんでさえも小学校で指導したのはこの日が初めて。先進的な学校でも、ようやく幼小の連携や情報交換が始まったばかりだ。「幼稚園や保育園のいい部分をうまく取り入れつつ、子どもにとって一番いい形を考えていきたい」と米沢校長は言う。
◆小1プロブレム
◇4校に1校で発生、少人数学級でも 「指導力」より「児童や家庭に原因」上回る−−東京都教委調査
東京都教育委員会が昨年初めて実施した「公立小学校第1学年の児童の実態調査」では、4校に1校の割合で「小1プロブレム」が発生していることが明らかになった。
調査は昨年7月、都内の全公立小学校1313校の校長と教諭(各校1人)を対象に、08年度1年間の状況を尋ねた。その結果、校長の23・9%、教諭の19・3%が小1プロブレムの発生を「経験した」と回答。発生時期は4月が56・9%、5月が19・2%と入学後の早い時期が圧倒的に多く、6月と夏休み明けの9月(いずれも6・6%)が続いた。
具体的な状況(校長の複数回答)としては、(1)授業中に立ち歩いたり、教室の外に出て行ったりする(68・5%)(2)担任の指示通りに行動しない(62・1%)(3)けんかやトラブルが日常的に起きる(50・3%)−−の順に多かった。採用1年目の担任の学級で発生する割合がやや高かったものの、2年目以上になると経験年数との明確な相関関係はなかった。また、教師の目が行き届きやすいはずの少人数学級でも、一定割合発生していたのも特徴だ。
問題解決のために実施した対応策は、「他の教諭や管理職が学級に入って協力する」学校が最も多く、半数以上に上った。学級担任を交代した学校は1・9%だった。
一方で、小1プロブレムの発生要因については、「児童に耐性や基本的な生活習慣が身に着いていない」「家庭の教育力の低下」など、原因を子ども本人や保護者側に求める声が、「担任の指導力」を上回った。